推しが声優になるためSNSを消した話

推しが声優転向するため、事務所を辞め、SNSを消した。

突然の出来事だった。

 

いや、彼の中では恐らくずっと思い描いていたことなのだと思う。

"声の仕事をしてみたい"ということや、"ラジオをやってみたい"と明言もしていた。

ただ、私は勝手に俳優を続けていく中で、その一部として声の仕事も視野に入れているのだと思っていた。

推しがオタクだったことも理由の一つだ。

 

でも、彼は"本業として"声優というお仕事に挑戦することを選んだ。

 

その発表を見たとき、訳もわからず泣いた。

推しの綴る、飾らない、ちょっぴり独特なように見えてすごく優しい、するっと心に入ってくる言葉たちが大好きだったのに、その発表の更新だけは、どれだけ読んでも頭に入ってこなくて、まるで脳が理解することを拒否しているようだった。

泣いて泣いて泣き疲れて、眠って起きて、全部夢だったらと期待して、でもやっぱり現実で、また泣いた。

つらくて、Twitterを開いて、やっぱりインスタを開いて、悲しくて閉じて、またインスタを開いて…。

スクショしなきゃ、コメントしなきゃ、今日の24時には全て消えてしまうのに、現実を受け入れるのが怖くて見られなかった。

インスタが消えた瞬間は、嗚咽が漏れるくらい泣いた。

まるで世の中から推しの存在が全部消えてしまったようで、寂しくて寂しくて仕方なかった。

 

私は、彼の舞台上で輝いている姿が大好きだった。

リョーマくん、カズくん、ライナス…全てキャラの違う役柄だったが、全部大好きだった。

同じ演目を何公演見ても、新たな発見があって、色々なところを変えてきて、一公演も同じ公演がなかった。

舞台の初日を見る度に、「こんなこともできたの?!こんな引き出しもあったの?!」とびっくりさせられた。

計算された気持ちの揺れ動きからくる仕草、目線のやり方、コロコロ変わる表情、豊かな表現力、声量を絞ってボソリと放たれるシリアスな台詞の巧みさ、伸びやかで聞いていて気持ちの良い歌、キレキレのダンス…彼のお芝居で好きなところをあげればキリがない。

お芝居以外でも、たくさん好きなところがあった。

例えばちょっぴりユニークな舞台挨拶をするところ。

いわゆるテンプレートな挨拶ではなく、地方にまつわる話であったり、本人の気持ちであったり。

各地方で、1回きりしか見れない人のことを常に念頭に置いて挨拶や公演をしてくれたのも嬉しかった。

涙が堪えられなくて、前髪や横髪を直すふりをして必死に堪えたり、鼻を擦ったり、人一倍感受性豊かで泣き虫さんなところも好きだった。

尖ったことを言ったり、行動したりしているけれど、すごく素直な人なんだなと思えた。

仕事に対するプロ意識はエベレストのように高く、ステージ上で起こることが全て、努力の姿は自分からは語らない、でも、ただ自分の思いを貫き通すだけじゃなく、ファンからの手紙はすごく良く読んでいて、恐らく参考にしてくれている。

これをできる人が何人いるだろうか?

なんてすごい人なんだろうって思った。

それなのに、なんだかんだ自分のファンには甘くて、優しい。

ファンの気持ちを考えて、あえてしないこともきっとたくさんあった。

 

羅列していけばきりがないほど、すごくすごく好きだった。

常に私には推し限定でSNOWのキラキラフィルターがかかっている、と言われたほどに、輝いて見えていた。

だから、そうやって視覚的に推しが見られなくなってしまう…いや、ただ単に舞台上の推しが見られなくなってしまう、そのことがつらくて悲しくて仕方なかった。

 

 正直、今でも、寂しくてつらくて、心にポッカリと穴が空いたままだ。

推しに会いたい、元気な姿が見たい、と何度も思ってしまう。

でも、私でさえこんなにも先行きが不安でつらいのに、推し自身はどんな決意であのインスタの文面を打ったのだろうか。

事務所を辞めて、インスタも辞めて、宣言することで逃げ道もなくして、ファンも付いてきてくれるかわからない中で、頑張ることを決めた推しを、私は本当にすごいと思う。

私はどうしても安定を捨てられない。

変わることが怖くて、周りからの目も怖くて、ズルズルと現状維持してしまっている。

でも推しは、きっぱりとそれまで積み重ねてきたものを捨てることを決めた。

それを、悲しんでばかりいられないと、少し時間を置いてようやく思えるようになった。

 

結局私は、俳優であっても、声優であっても、推しのことが好きなのだから、応援するしか選択肢がない。

せっかくなんだから、楽しんでやろうと思う。

 

思えば、彼にはたくさんの素敵な景色を見せてもらってきた。

きっとまた、新しい、素敵な景色を見せてもらえるのだろう。

 

その日を、楽しみに待ちたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの日か、アニメのエンドロールにかつての越前リョーマ役の名前を見つけたそのときは、どうか、そっと応援してください。