推しの俳優人生の区切りを見届けた話

先日、推しの出演舞台が千秋楽を迎えた。

 

"GEM CLUBⅡ"

 

大楽は水曜日名古屋という鬼のようなスケジュールだったが、行くしかないとチケットを押さえ、職場に頼み込んで無理矢理公演に間に合う新幹線に飛び乗った。

 

「もしかしたら最後かもしれないから」

 

その後の推しの仕事は発表されていなかった。

声優を目指すと1年前にインスタを消した彼は、今声優事務所に所属していて、アプリゲームのキャラクター等の仕事をポツポツこなしている。

今発表されていないということは、きっとしばらく舞台の仕事はないだろう、声優の方に力を入れるのかな?年内に何かあったら嬉しいけど…そんな風に思っていた。

いや、多分、なんとなくは気付いていたのかもしれない。

だから、公演期間が地獄のように忙しい年度末・年度初めなのにも関わらず、見られる限界までチケットを取った。

でも気づかないふりをしていた。

これが、俳優として彼が舞台に立つ、今後数年の間では最後の公演になることを。

 

 

 

GEM CLUBⅡとは、前作のGEM CLUBの2年後、SHOW HOUSE"GEM CLUB"でショーをするGEM=原石を探し、スカウトしていくお話である。

様々なジャンルのダンス、歌のみならず、タップ、ワークショップ等、様々なエンターテインメントをギュッと濃縮したような、舞台というよりはショーに近い作品で、タップダンスを得意としている推しにぜひ出てほしいと、以前から言い続けていた作品であった。

そんな念願の舞台に立つ推しを初めて見たとき、想像を遥かに超えた素晴らしいパフォーマンスをする姿に、嬉しさよりも感動と幸せが溢れて泣きそうな気持ちだった。

 

さあやってやるぞ!とでも言うようにニヤリと笑って踊り始める推しがかっこよくてかっこよくて、目眩するくらいときめいた。

全身に意識が行き届いた、推しのダンスはかっこよくて見ていて気持ちよくて、見るたびにいつもギュッと心臓をつかまれたような気持ちになる。

そのくせ、可愛いシーンでは徹底して可愛くて、推しの徹底ぶりに心底驚いた。

 

特に好きだったのが、最後のバラード

歌詞を噛み締めるように、時折目を閉じながら歌う姿が眩しくて、幸せで幸せで胸がいっぱいになった。

ああ、この人を応援してきてよかった、なんて幸せなんだろう、このまま時が止まればいいのに、と公演中何度も思った。

 

 

そんな幸せな1ヶ月はあっという間で、プレビュー、クリエ、大阪と公演が終わっていき、最後の名古屋公演。

毎公演毎公演、その回しか見られない人のことを忘れず、丁寧に全力で演じてくれる推しなので、大楽だからといって力を入れるわけではなく、どちらかというとフラットな演技をしてくれることが多かった。

だが、その日はなんとなく違った気がしたのだ。

1幕はいつも通り、しかし、2幕のショー部分はいつもより少し気合が入っているように感じた。

いつもより少しだけたくさん話していたり、表情芸が少し激しめだったり、そうした少しの差だったが、なんだか自分の中で少しひっかかった。

まるで、悔いを残さないかのような、そんな全力の出し方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、昼に推しがツイッターを更新した。

 

内容は千秋楽ありがとうございましたというもの。

そして。

 

"今回を節目に自分の選んだ道を突き詰めていきます。
声のお芝居を探求して、キチンと声優としてお仕事をしていけるように精進いたします。
色んなことを取捨選択してたどり着いた今なので、必ず声優の世界でも這い上がりたいとおもいます。"

 

"もう一生舞台に立たないということではありません。また機会があれば舞台に出ることもあると思います。"

 

下は一年前にも見た言い回し。

でも、オタクだからなんとなく察してしまった。

きっと推しは、今回を節目にすると言った以上、しばらくは舞台に出ないし、今決まっているものもないのだろう。

今決まっていないということは、1〜3年は舞台に立たないということだ。

そして、推しはこうやって言葉にした以上、絶対に声優の道を突き詰める。

1年前に決心したつもりだったのに、素敵な舞台に出て、最高のパフォーマンスをする推しを見てしまって、「もしかしたらこうやってちょくちょく舞台に出ながら声優の仕事もしていってくれるのかもしれない」と甘い考えを抱いてしまった私が間違っていた。

推しは、そんな保険をかけるような人じゃない。

こうと決めたら真っ直ぐ、自分の思いを貫く人だ。

とんがったことを言ったり、行動したりするため誤解を受けやすいが、本当は人一倍優しくて、傷つきやすくて、そしてとてもプロ意識の高い、尊敬する人やファン・仲間だと思った人を大切にする、人情深くて温かい。

それが私の好きになった推しだ。

 

言葉にした以上、きっと彼は本当に声優として大成してくれるのだと思う。

それだけの覚悟できっといてくれている。

その覚悟を、私はとても尊敬する。

 

でも、正直な気持ちとしては、とてもとても寂しい。

某有名アーティストの"頭でわかっても心がごねるの"という歌詞がこれほどぴったりな状況もなかなかないと思う。

「本人の夢と覚悟を応援したい」という気持ちはもちろんある。

それでも、私は舞台の上の推しが大好きだった。

 

とても素敵な演技をする人なのに、全力で作品に向かい合う人なのに、どうして??

このまま続けていれば、きっと色々な素敵な作品に出会って、素敵な先輩方にも囲まれて、たくさん評価されていくに違いないのに。

もっとストレートに言えば、たくさんたくさん色々な作品に出る推しが見たいし、もっと感情の揺れ動きがある作品にも、ミュージカルにも、ストレートにも、帝劇にだって出てほしかった!!!

それが(少なくとも数年以内には)見られないということが、とってもとっても寂しい。

推しの身体表現の素晴らしさ、表情演技の巧みさを知っているが故に、勿体無いとさえ思ってしまう。

 

 

 

そんな複雑な思いを抱えたまま、その日の夜行われたLINE LIVEを視聴した。

大楽の次の日だ、さすがに感想等なにか話があるだろうと思っていた。

 

しかし、そこには「新人声優の○○です!」と嬉しそうに微笑む推しの姿があった。

舞台についてほぼ言及はなく、ゲストの方が先輩声優であったこともあると思うが、トーク内容もほぼ声の演技の話。

きっとそういう内容だと決まっていたからこそ、その前にあのツイートを投稿してくれたんだろう。

本当に、どこまでも優しい人だ。

トークを聞いている限り、俳優だったことは、遠い過去のように感じたほどだった。

 

それでも、「俺まだ1人でしかアフレコしたことなくて…でもいつか、みんなでアフレコする現場が来るんですよね」と嬉しそうに、照れくさそうに、でも本当に楽しみでしかたない!という口調で語る推しは、キラキラ輝いていた。

本当に声優がやりたいんだな、今の夢なんだなと思った。

 

私は根っからの舞台オタクなので、どうしても舞台が好きな気持ちは自分の中で消すことができない。

舞台で輝く推しを知っているから尚更である。

でも、その寂しさも悲しさも抱えながらだけど、夢を追う推しを応援したいなと前向きに思うことができた。

自分でもちょろいオタクだなと思うが、笑顔で夢を語る推しに、それでも舞台に立ってほしいとか、ついていけないとか、そんなこと、私には言えない。

私にできるのは、そっと応援することだけだ。

 

 

 

 

最後の公演、GEM CLUBⅡに関しては、弱小オタクレベルだが、自分が納得するだけ観劇した。

推しの力強いダンスも、メイド姿も、噛み締めるように歌う姿も、オタク芸も、ファンサも、ワークショップのお題を聞いて少し不安そうな顔も、褒められて嬉しそうな顔も、仲間と楽しそうに笑う顔も、渾身のボケがウケなくてちょっぴり落ち込んだ顔も、舞台上からの優しい笑顔も、私はずっと忘れない。

本当に幸せな1ヶ月を、ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に。

最高の公演と、たくさんの思い出をくれた俳優としての推しさん、今まで本当にありがとう。

ずっとずっと忘れないよ。

また、いつか必ず会おうね。

 

 

そして、声優としての推しさん、これからどうぞよろしくお願いします。